古染付とは
一般に中国・明末の天啓年間(1621~27)あるいは崇禎年間(1628~44)頃につくられ、江西・景徳鎮の民窯で焼かれた染付磁器のことをいいます。南方民窯の呉須手とは区別されます。高砂手・桜川水指・羅漢手の反鉢・魚形の向付など、明らかに日本向けとされるものも含まれ、重厚なつくりと、陶工の意匠を素直にあらわした飄逸みにあふれる文様が特徴です。その味わい深さから茶人に親しまれ日本で珍重され、ほとんどの遺品は日本にのみ伝わっています。
呼称の由来
古染付の呼称については諸説ありますが、江戸時代の資料にはみられないことからも、決して古くから使われていた言葉ではありません。茶会記や箱書きによると、それ以前には「南京」つまり中国渡りの染付という意味で「染付南京」と呼ばれていたようです。その後、江戸後期に伝わった煎茶道具の清朝染付に対し、初期に渡った古渡りの染付を「古染付」と呼んだとの説が一般的です。
明末の景徳鎮
明末の景徳鎮では、萬暦帝の御器廠への焼造下命がおびただしい量となり、碁石・碁盤・碁罐・屏風・燭台・筆管といった食器以外のものまで用命されました。その結果、原料の消費は甚だしく、麻倉の採土坑は深く掘り下げられ、役人は私腹を肥やし、陶工らは辛酸をなめることとなりました。しかし萬暦帝の崩御により御器焼造は中止となり、御器廠は事実上の閉鎖を迎えます。このような背景のなかで、景徳鎮の民窯によっていわゆる古染付、天啓赤絵・芙蓉手・祥瑞・南京赤絵が生み出されていきました。
古染付の特徴
銘
古染付には「大明天啓年製」「天啓年製」あるいは「天啓年造」といった款記が底裏に書かれていることがあり、このほかにも「天啓佳器」といったものや「大明天啓元年」など年号銘の入ったものも見られます。また年号銘でも「成化年製」「宣徳年製」など偽銘を用いた作例もあり、優品を生み出した過去の陶工に敬意を払いつつも、それまでの様式にとらわれることはありませんでした。これらの款記は正楷書で二行もしくは三行であらわされるのが慣例とされていましたが、比較的自由に書かれており、まるで文様のひとつとして捉えていたようにも思えます。それ以前の景徳鎮ではこのように自由な作例はみられず、民窯であったからこそ陶工の意匠を素直にあらわした染付を生み出すことができました。
虫食い
天啓で使われていた陶土は決して上質のものではなく、そのため焼成時に胎土と釉薬の収縮率の違いから虫食いと呼ばれる特徴が生まれてしまいます。特に口縁部は釉が薄く掛かるために気孔が生じて空洞となり、冷却時にその気孔がはじけて素地をみせるめくれが残ってしまいます。本来、技術的には問題となるところを、当時の茶人は虫に食われた跡と見立てて鑑賞の対象としました。これは古染付特有の特徴としても知られています。
絵付
土青による濃青な発色をうまく使い、さまざまな器形に合わせて絵画的な表現を用いて絵付を行いました。それまでの型にはまった様式から一歩踏み出し、自由奔放な筆致で明末文人画を例にとった山水や花鳥、羅漢・達磨などを描いています。
器形
中国では元来、小皿の形の多くは円形をなしています。古染付でも円形の小皿は多くみられますが、そのほかにもさまざまな器形がつくられています。十字形手鉢・木瓜形手鉢・扇形向付といったものは織部にも見られる器形であり、日本から木型などを送って注文をしていたのではないかとも想像できます。轆轤を専門としていた景徳鎮において、手捻ねへの突然の変更は難しいものでしたが、注文に応じていくうちに、さらに独創的な形(菊形・桃形・柏形・魚形・馬形・海老形・兎形)を生み出し、古染付独自の器形をつくり上げていきました。
天啓赤絵
古染付と時を同じくして天啓年間(1621~27)にはじまり、景徳鎮の民窯にて焼かれた赤絵のことをいいます。萬暦まで続いた官窯様式から脱却した古染付に、朱・緑・黄で上絵付を施しています。その特徴は古染付とほぼ同様ですが、古染付に比べて生産量はかなり少ないものです。
南京赤絵
南京とは中国を意味する言葉として使われており、南京赤絵とは中国・明末の赤絵のことをいいますが、狭義では天啓赤絵・色絵祥瑞らと区別して使われることが多くあります。その意味で南京赤絵は、明末に景徳鎮でつくられた五彩のことを指し、施文には染付を用いず主として赤・緑・黄を使い、染付は銘など一部に限られています。華麗な意匠のものが多く、口縁には鉄砂で口紅が施されるもの、金彩を加えた豪華なものもあります。
祥瑞
祥瑞(しょんずい)は、古染付とほぼ同時期の明末・崇禎年間頃に景徳鎮で焼かれた染付磁器で、日本の茶人からの注文によりつくられたと伝えられています。器の底に「五良大甫吳祥瑞造」という銘が入ることで知られ、幾何学的な文様や吉祥文様を几帳面に配した精緻な作行きが特徴で、飄逸みのある古染付とはまた異なる端正な趣を持っています。
- 東京国立博物館
- 京都国立博物館
- 出光美術館
- 滴翠美術館
- 『陶磁体系44 古染付・祥瑞』平凡社
- 『陶磁体系45 呉須赤絵・南京赤絵』平凡社
- 『世界陶磁全集14 明』小学館
- 『古染付』京都書院
