中国漆工芸とは
中国における漆器の製作は、およそ六千年前にまで遡るとされ、これを裏付ける遺品もいくつか発見されています。近年、中国の漆芸に対する関心は世界的にも著しく高まり、その研究も着々と進められてきました。ここでは、彫漆・平脱・沈金・存星・螺鈿・蒟醤といった代表的な加飾技法を紹介しながら、高い美意識と巧みな技巧から生まれた中国漆工芸の美しさをお伝えします。
漆工芸の加飾技法
漆工芸の加飾技法は、大きく「彫漆」のように漆そのものを彫り込んで文様をあらわす技法と、「平脱」「螺鈿」のように金属や貝といった異なる素材を漆面にはめ込む技法、そして「沈金」「存星」「蒟醤」のように彫り込んだ溝に金や彩漆を充填する技法とに分けることができます。
彫漆
漆を何層にも塗り重ね、文様を彫りあらわしたもの。漆の色や文様によっていくつかに分類されます。
- 堆朱:中国では剔紅と呼ばれ、朱漆を用いる。遅くとも宋元期には行われ、明代以降に盛行しました
- 堆黒:中国では剔黒と呼ばれ、黒漆を用いる
- 堆黄:中国では剔黄と呼ばれ、黄漆を用いる
- 犀皮:黄・朱・黒漆を塗り重ねた層を彫る技法。現存する遺例は少ない
- 彫彩漆:中国では剔彩と呼ばれ、朱・黄・緑・褐色などを塗り重ね、文様によって各色を彫りあらわしたもの
- 屈輪:渦巻文・蕨手唐草文など曲線の連続文様を彫りあらわしたもの。元・明代に流行し、この技法による盆や香合が鎌倉・室町時代の日本にもたらされました
平脱
漆地に金銀などの金属の薄板を文様に切って貼り付けたもの。中国では古代よりすでに行われていましたが、唐代になって流行し、花枝文・双鳳文・人物山水にいたるまで表現されました。銅鏡の鏡背装飾としたものは平脱鏡と呼ばれ、正倉院の御物にも優品が伝わっています。
沈金
中国では鎗金と呼ばれます。漆の面に極細の針状の刃物で細密な文様を描き、その上から生漆を擦り込み、金泥または金箔を施して磨くことで、溝に金を残して文様をあらわす技法です。銀を用いたものは鎗銀と呼ばれます。その起源は古代中国の填彩技法に遡るとも、漢代の線刻文様の漆器や、宋元の金銀胎の漆器に線刻を施した際にあらわれたものとも考えられています。
存星
それ以前からあった彫彩漆の技法に創意工夫を加え、明代中期頃に始められたとされる、比較的新しい装飾技法です。器胎に彩漆を厚めに塗って文様を彫り、そのくぼみに別の彩漆を埋め込んで全体を装飾します。明代前半の宣徳期にもこの技法による遺品がありますが、文様の輪郭線を沈金(鎗金)の手法で表現するようになるのは嘉靖期・萬暦期になってからのことです。存星の盆は、日本には茶道の普及とともに唐物干菓子盆として渡来し、盆のほか椀・盒子・箱などの茶道具としても珍重されてきました。
螺鈿
夜光貝やアワビ貝などを文様に切って漆面や木地に嵌め込んだり、貼り付けたりしたもの。唐代の螺鈿は厚貝を用い、木地または下地に嵌入・貼付したのち漆を数回塗り重ねて研ぎ出すか、貝の上の漆を塗って小刀などで剥がしてから仕上げます。木地に直接貝を嵌め込む木地螺鈿の例も多く見られます。明代には薄貝が主流となり、糊漆や膠漆で漆面に貼り付けたのち、上から漆を塗って研ぎあらわす技法が多く見られます。
蒟醤
文様を線刻し、その中に他の色の漆を充填して研ぎ出したもの。黒地に朱の文様をあらわす一色のものと、各色で文様をあらわしたものの二種があり、南方系の技法とされています。
- 東京国立博物館
- 京都国立博物館
- 出光美術館
- 根津美術館
- 大和文華館
- 『鎗金・沈金・存星』東京国立博物館、1974年
- 『中国の漆工芸』東京美術倶楽部青年会、1970年
- 『中国漆工藝』平野古陶軒、1991年
